除夜の鐘を遠くに聞きながら家路をたどる。 有象無象に囲まれての二年参りで人あたりをおこしたようだ。 夜気が心地よい。 「あーぁ…」 誰も聞いていないと思ってふとつぶやいた。 「ジジくっさ〜」 驚いて声のする方を見ると、 夜目にも鮮やかな赤い車の窓が下りて、白煙が流れた。 「何してんだよ」 訪ねる白川に憮然として答える緒方。 「一服」 …勿論一本という意味ではないようだ。 「路駐してると引っ張られるぞ」 にらんでみるが鼻先でせせら笑う。 「ヤツラに追いつけるもんか」 …んだとぉッ?! 違法改造してるんじゃないだろなッ? 「実証してやる。乗れよ」 「馬ァ鹿、ボクはこれから寝るんだ」 「ぁに〜?」 「一日若い連中に引きずり回されてくたびれてんだ。 すぐにも布団を引っかぶって寝たい気分」 不満そうな顔して見せたってだめ。 酔っぱらい運転に便乗してなるものか。 「折角待っててくれたんだから…ウチに寄ってくれれば お茶くらいご馳走するけど?」 「いるか…ッ」 エンジンをかける緒方。 「待てよ…!」 畜生ッ…また敗けだ…。 閉まりかけた窓に白川は手を挟む。 「痛ッ」 窓を下げ、我が意を得たりの顔で緒方、 「何だ」 赤い筋のついた手に舌を伸ばす。 「他にもゴチソウがあるのか?」 その細い顎を捉え、顔を寄せ、白い息だけで薄い唇に 誘惑を注いでみる。 「キミの好物… キミの好きなだけ…食べさしたげる」