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バースデイ・サービス     

緒方とばったり出会ったヒカル、問わず語りに今日が何の日か知らされて。
「緒方せんせー、今日が誕生日なの? じゃあメシおごってー♪」
なんていう進藤に、
「…どうしてオレがおごるんだっ」
と怒ったはずの緒方でしたが…ちょうどランチタイム。
「ファミレス入るなら、オレ、アンミラがいいな〜。制服かわいいよね」
「(…餡?ミラー???)」
という緒方の世間知らずは脇に置きまして。
舞台は一転、天下のファミレス。
駐車場にはファミリーカーが所狭しとひしめき、
階上の店内も見渡す限りお子様連れとカップルで埋まっています…。

「先にこちらへお名前をお書き下さいますか。
 お席がご用意でき次第、ご案内いたします」
「あ、オレの名前でいいかな? シン、ドウっと」
「……」
緒方は無言だ。
「禁煙席でもよろしいでしょうか」
「えっと…、いい?」
ヒカルは愛煙家を振り返ったが、軽くうなづいたような気がしたので、
「お願いします!」
と、答えた。お腹が空いている。早く座れる方がいいだろう。
ただしこの瞬間、背後の緒方がどんな顔をしていたかは、
ウェイトレスもウェイティングボードに意識があって見ていない。


「こちらへどうぞ」
ウェイトレスが微笑んで窓際の明るいテーブルをまっすぐに伸ばした手のひらで
指し示した。
テーブルについたヒカルは緒方を指さして言った。
「あ、この人ね、今日、誕生日なんだよー」
「おめでとうございます…! では、お誕生日サービスをご用意いたしますね」
何のことかついていけない緒方をよそに、ウェイトレスはにっこり。
ヒカルもニコニコ。

そして緒方さんは…店内のウェイトレスどころか、厨房スタッフまで勢ぞろいで
ハッピーバースディを歌われるという、屈辱的なサービスを受けてしまうのでした。
でも、パイの上にアイスクリームがサービスされるから、許してくれないかな?
(ヒカルはそれが目当てだったらしい…。)
やったー!
しかも、小さい丸ケーキに火のついた花火が差してあるやつまで登場ー☆
(…日本ではありえないと思うけど
緒方がいる世界は日本であって日本ではないので、出るのよ。)

「さ、吹き消して。緒方さん!」
不承無精、という様子で、ふーっと吹く緒方。
なんと、一息で全部消えました。
(嫌そうな顔してけっこうマジに吹いたな、緒方?)
「すごーい!」
ヒカルの尊敬のまなざしに少し得意気。
「ね、ね、緒方さん、願い事した?」
おや、ヒカル、何か間違って覚えています(笑)
「願い事…?」
「そう、早く本因坊になれますよーに、とかさ…いてっ」

ケーキを欲しがったのはヒカルだから責任持って食え!
と緒方は威張って見ていたのですが、どうにもヒカル一人で食べきれなくて。
「う〜…も、ダメ…緒方さんも手伝ってよー!」
「そんな甘ったるいモノ、食えるか」
と言いながらも、差し出された欠片を口で受ける緒方。
首を少し傾け、唇が開く。舌がちらりと覗いて、
差し出されたそれはおとなしく食べ下された。
「クス…なーんか、ヒナにエサやってるみてー…」
クスクス笑うヒカルを憮然と見る緒方。
笑っているのはもはやヒカルだけではなかったが。
「オレもすっごく頑張ったから、緒方さんも…ハイ」
調子良く運ばれるのを飲み下すしかない。
「ク…口の中が、甘ったるぃ…」
「じゃあ、コーヒー頼んであげるね」
「あげるねって…」
「これはオレのおごり。誕生日だから」
「フン、安い祝いだな…」
と言いながらも意外に喜んでいる緒方。
「安…、じゃぁ一局打ってやるよ、緒方さん」
「はぁ?! 打ってやるだ? そいつはオレの台詞だろ…」
あきれながら、実はかーなーり嬉しそうな、緒方。
「オレの碁会所で打とうよ!」
「オレ…の…?」
ちょっと不思議そうな緒方。
もちろん行洋先生のようにヒカルがオーナーな訳はなく、
この若さで指導役として契約している会所があるわけでもないヒカル。
彼が言いたかったのは…道玄坂の碁会所です。
つまり、
「オレの(よく行く)碁会所」
…ヒカル先生、中略しすぎ;

道玄坂の碁会所は、ヒカルを因島まではるばる案内してくれたタクシードライバー、
河合さんたちの溜まり場です。
でも、緒方さんをそこへ連れていくと大騒ぎになるかも…と危惧したヒカル。
「あ、ねぇねぇ、やっぱさ…わざわざ移動しないでここで打とうよ。
緒方さん、車止めて」
とマグネット囲碁で打つふたり。

「あ、もしもーし…」
コンコンコン、と窓を叩く婦人警官に緒方がやっと気づいたのは中盤。
小さい盤に惑わされたわけでもあるまいけれど、
意外と気の抜けない展開ですっかり気をとられていて、
何度警告されたのかまったく記憶がない。
「すみませんねー…私も無闇に切符切りたくないんですけどぉ…」
と間の抜けた笑いを浮かべた警官。
「い、今、移動します…っ」
「私らぁ…二人なんですよぅ、原則」
「はい…もうお一人は…?」
「先輩、ちょっと別件でぇ、走っちゃってぇ…今いないんでえすけどぉ」
「お一人なんですか」
「さっきまで、居たんですけどねぇ」
「はぁ、とにかく今…」
「ざんねんでしたぁー。てーおーくーれー。
 すいませんーん、もう〜切符切っちゃったんですね〜」
「えっ…そんな…」
「先輩必死で呼びかけてたんですけどねーぇ? なんかーちょっとー知り合い?
 らしくってぇ…でも運転手さん、ちーっとも気づかないからぁ…」
「………」
「…じゃ、アタシも用があるんでこれで。それ」
と、ワイパーに挟んだ紙を指差した。
「期限内に来て下さいね〜…運が良ければぁ、先輩に会えますよぉ…?」
「あ、じゃあ、オレ電車で…」
そそくさと逃げを決め込もうとするヒカル。
見捨てられるのか、緒方…ちょっと可哀想?
そんなヒカルにピラリラッタター♪ と、かかってきた電話は。
「何だ、塔矢かーこれから? 行く行く…あ、ちょっとかかるんだけど…
 いい? うん、じゃ」
ヒカルをさりげなく(?)呼びつけるアキラには
とっくにファミレスでの所業がお耳に入っているのであった…(瞑目)
ヒカルは窓を開け、身を伸ばすと挟んであった通告用紙を取り上げる。
「この辺ってあそこの警察署の管轄だよなぁ…。
 あのさ、これから塔矢と会うんだけど、やっぱり乗せて行ってよ。
 ここ、経由してもいいからさ」
ひらひらと紙を振るヒカル。

うわーおー。アキラさん、地獄耳ぃ〜(笑)
きっとアンミラにアキラ親衛隊が…(汗)
あぁっ…二人してがん首そろえて行ったらどうなるんでしょーか?
アキラくんは緒方さんも来るのをお見通しなんでしょうか…。

アキラは勿論ヒカルをもてなし緒方を訊問のご予定でしょう。
おや、ヒカルが食べさせたのに、詰問されるのは緒方さん?
そうなのです。
ヒカルが食べさせたって、そんなの悪いのは緒方に
決まっているのです…アキラ的に。
しかもヒカルの前でやるとヒカルがかわいそうなので、
見えない所でギリギリと…。
あーあーあー…お気の毒にー…。
「緒方さんが、そんなに甘いものがお好きだなんて知りませんでしたよ」
と冷たく笑って言われようものなら、心も凍りそう〜。
それにしてもお賢いヒカル様です。
いつの間に警察の所轄などお心得遊ばしたのでしょう…。
なんだかそーゆーことに詳しいのかも、ヒカルって?
よく街中うろうろ遊んでそうだし。

結局、緒方はヒカルを載せたまま車を出します。
前に待つのは地獄と知っても前に進まなくてはならない時はあるのだ…。
緒方は交通課で手続きを済ませると車を急がせた。
(ヒカルのために…。)

さーて、見えてきました「碁」の看板。
(ぅわッ、何が「オレの」だ…先生の、じゃないか…っ)
「へへっ…オレよくあそこで打ってんだ(塔矢と)!」
喜々として答えるヒカル。
焦りだす緒方に、
「緒方せんせー、ありがと」
重みはないがきちんと礼を言ったヒカル。
近場まできて、赤信号で止まった車から降りてしまう。
「路上駐車して、また駐禁取られたら大変でしょ、先生?」
「あ、あぁ…」
「また打とうよ」
「あぁ」
「じゃぁね!」
バイバイするヒカルが写るバックミラーに、
心なしか緒方の口の端が上がっていたようにも見ました。

ビルの階段を登るとちゅうでヒカルは市河さんにバッタリ。
「あらっアキラ君も今来たとこよ」
アキラはヒカルご来臨でとりあえずご機嫌麗し…。
「早速…」
「おぅ! 今日は勝つぜ」
(緒方といい勝負をしたばかりなので意気軒昂のヒカル。)
「ふっ…ボクが譲るとでも?」
「思っちゃいないけど、それでも勝つぜ!」
「楽しみだ」

「あ、いらっしゃーい」
「ぅへ…今はじまったのかい」
「そ、今」
常連さんに苦笑する市河さん。
今日の風はどっちに吹くのでしょうか…。


                               〜 fin. 〜




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