… 冬 日 …

………………………………… せいじのにっき(1) ……

二日目。

まだあと二日ある。

起きたらまたいなかった。が、
すぐ朝食の盆を下げて戻ったので
許してやることにする。

生野菜を食わされるのは閉口したが。

ホテルに泊まると
家事に手を取られないのはいいが、
食事不如意なのがいかん。

今日は買い物に付き合った。

…何が欲しい?
と聞いたから、
…車検。
と、正直に答えた。
すると、
…それは自分でやれ
と怒られた。

車検は毎年頭痛の種だが、
今年は免許更新もあって
スケジューリングに悩んでいるのだ。
今回の修理ついでにチョチョイ
とやってくれるといいんだが…
ピットのオヤジ入院中だから。
無理だろなぁ…。

とか考えてたら、うつむいてたのが
ショーウインドウの方だったらしく、
クロノグラフをプレゼントしてくれた。

青い文字板に金色のアラビヤ数字で、
時、分、秒が別々に書いてあって、
月の満ち欠けがわかるやつだ。

…無駄遣いするなッ
と怒鳴ってやった。

本当に馬鹿なヤツだ。
オレがいつそんなのを欲しがったと
いうんだ。ばか。

腹が立ったから賑やかな通りをずんずん
先へ行った。

やたらカップルだらけなのも不愉快だ。
ピカピカに電飾された気の毒な街路樹が続く。
大通りの終点は市庁舎前。
総電飾の巨大ツリーがきらめき、
クリスマスキャロルの生演奏だ。
人混みで前に進めない。
しかたないから立ち止まる。

ヤツが追いついて隣に立ち、
肩を寄せてきた。
人に押されてだろう。
…はぐれたら大変だから
と手を繋がれた。

帰り道ずーっとそのままだ。
オレはむちゃくちゃ恥かしかった。
でもヤツは平気な顔をしていた。
ムカつく。
どうして平気なんだ。ぜったいおかしい。
あげく橋の上で…
い、一瞬だったし暗かったから誰も見てないと思うけどっ
な、何すんだ、バカッ!
あともーちょっとで部屋に着くんじゃないか!
その、もーちょっと、が待てんのか、キサマー!!

情けなくて寒くて涙が出てきた。
ヤツは調子に乗って
酔っぱらいを支えるように腰に手を回した。
抱きかかえるようにして歩かされる。
そんなことヨロコブのはオマエだけだー、変態ッ
ばかー!
今日もぜんぜんやさしくないじゃないか。
この、うそつき…っ!

ちくしょう、もう帰るぞ。オレは…?
くそばかやろう…。
オマエなんか一生許してやらん!
笑ってやがる。
聞いてんのか、天然ボケッ


…………………………………… 道夫の日記(1) ………

今日で小旅行も終わると思うと
少し寂しい
が、今日一日はまだたっぷりある
と思いなおす。

昨日の朝食はイマイチだったので
中華にした。
粥と火を入れた菜だ。
わりと機嫌良く食べた。
そりゃまぁ
昼近くまで寝りゃ腹も減るだろう。
あまりに愛らしい寝顔に起こせなかったのは
ちょっと反省。
夕方まで寝かせたんじゃないから
いいとするか…。

食べ終わってもまだぐずぐずしてるので
ちょっと怒る。
するとますますぐずる
ので弱り果てた。
今日は帰るんだから、
さっさと引き上げたい。
こっちが弱ってると見ると、
ますますつけ上がる。

ので余裕のあるふりをして
外へ誘い出そうとした。
けど…。

結局誘惑に負け、出たのは四時過ぎ。
ぅ…未熟。

…もう帰るだけなら、何を急ぐ?
と文句タラタラだけど、
ここまで来たら
どうしても一緒に行きたかったんだ。
静かな光の祭典…
それは、キミにこそふさわしいもの。

点灯直前に着いた。すると
会場入口までぎっしりと人が詰め掛けてて。
通行規制でボクらも三十分ほど
寒い中を立ちつくすはめになった。

…人混みは大嫌いだ
と、プンプンしてたけど、
今日は手を繋いでも文句言わなかった。
はぐれたら二度と会えなさそうな混雑に
感謝。

光のアーチをいくつもいくつも、
ゆっくり、
くぐっていく。
ぴったり寄り添って歩いてても
そこではそれがあたりまえ
だから…ただ黙ってゆっくり歩いて。
どこまでも。
遅れがちな速度で。

最後の、円形になった光のパネルの真ん中で、
はしゃいで携帯カメラに
ツーショット撮ったりして。
けっこう喜んでくれたみたいで、
よかった。
無理言って連れて来て。

…最高のクリスマスになった。ありがとう
て言ったら、
…は?
と怪訝な顔をする。

だって、今年は
クリスマス当日お互い用事でムリだから…
だから世間と同じ三連休なんて
柄でもない日程で企画したんじゃないか…!
何だよ、その不満そうな顔っ
これ以上どうしろって言うんだ…
茶言うな…!

…コレはコレでクリスマスは別
って…
そりゃ今日はクリスマスでもイブでもないさ!
でも、
そもそもクリスマスって何だ?
言ってみろ!
信者でもない癖に…
クリスマスはクリスマスー?
そんなの理由になってないだろ、全然。
知らなきゃ言ってやるけど、
そもそもはイエスの誕生日でも何でもないんだ。
冬至の祭がキリスト教徒になっても残っただけで。
そういう意味では昨日、22日がホントの祭日だろ。
ちゃんと昨日カボチャ食べたじゃないか?
冬至に南瓜、中風除けって。
きちんと行事こなしてるだろっ。
何が不満だ…怒るぞ、もう。



……………………………… せいじのにっき(2) ……

何とかという番組に顔出しが決まり…
もっとも、オレは当初ほんの一分弱
顔を出すだけとか聞いていたのだ。
急にもう少し出番を増やしたいとか
ぬかし…今日は打合せ、と某局に呼び出された。

く…くだらん。
オレがなぜこんな所でこんな事を…。
こんなくだらん事にかかずらってる間に…
他所のヤツラに出し抜かれるんじゃないのか!
イライラする。

こういう雑事をこそ、院が組織として
引き受けるべきじゃないのか?
まったく…時間のムダだ。
これだけのために
昨日の内に移動しなきゃならなかったのか
と思うとよけいに腹立たしくてならん。

しかし。
知らなかったが、アイツ
一度ならず半年ぶっ続け毎週放映の講師
なんかやってたんだ。
局のスタッフに聞かされて驚いたら、
非常に驚かれた。

るさいっ
オレは余計な事まで根堀り葉堀り探る癖は無いんだ。
誰かと違ってな…!

…誤解しないでほしいんですが、
とソイツは続けた。
…下手にけなすとファンに睨まれますよ〜?
 その世界じゃ、ちょっとしたアイドルですからね。
などと、ワケ知り顔で脅しやがった。

よっぽどアイツが本当はどんなヤツか
ブチまけてやろうか、
と思ったが。
ヤツの耳に入ると面倒になるので
慎む。

再編ビデオの売れ行きも好調だと言う。
あまり金も無さそうな面をしてるわりには、
じっさい困った様子がないのは
こういう副収入があったからか…?

あぁくそ。
誰がヤツの事なんか考えるかっ?
薄情者の事なぞ
すっかり忘れてるんだオレは。

すっかり時間をとられ
ぐったり、外に出ると視界一面狂騒状態。
あぁ?
今日は何だって?
目に付くすべてがサカッて見える。
気のせいじゃなく世界中が発情してるんだろう。
めでたい事だ…平和な聖夜万歳!
皮肉でなく心底思うとも、今年は。
遥かな聖地は、緊張のまま何の飾りも無く
夜間のみならず市街通行もままならぬ、
と報道されているけど。
まだ砲火が行き交わないうちは
きっとどこかにまだ会話の機があるはずだ。
互いにとても近いのだし…。

望んでなんかいないし、望んだ事はない。
いてくれ、などと口にした事はない。
また、と約す事もない。
守れない言葉はただの嘘だから。
ただ事実だけが音も無く重なっていく。
重ねても、重ねても軽くて、
ちょっとしたそよ風が吹いただけでも飛散してしまいそうな
かさなりだけが…

…雪か。

こんな日は誰もつかまらない。
こんな日に限って誰にもつかまらない。
つかまりたいわけじゃなくても
ただひとり冷たい部屋に帰る気がしない夜もある。

行きつけの店の前を行き過ぎた。
なじみの顔がこちらを向く前に立ち去る。

さっさと部屋に帰ろう。
可愛いヤツラに新しい餌を与えて
風呂に入って寝るのがいい。
頭が痛い…
風邪か?

懐が震えた気がして携帯を見た。
気のせいだったらしい。
着信記録がひとつ、随分前の時間で。
伝言は無い。

携帯を戻した時、
触れたのは車の鍵。

様子見に立ち寄ると
オヤジが店先で煙草を吹かしていた。

…退院おめでとう
と言うと、
…何がめでたいもんか。
…正月は屠蘇くらい飲ませろっつったら
 追い出しやがった。
 ちっとも良くならねぇヤブだからいいけどね。
…まぁオレは嬉しいよ。来年もよろしく
…冗談じゃねぇ、来年こそ引退しやすよ
 アタシゃ。とても先生の面倒なんか見切れねぇ。
…大事に乗ってるだろ
…直した途端に遠出させんだもの。
 ホラ顔に書いてあんじゃないですか…ったく。
 チェーン巻きますから、
 ちっと待っておくんなさい。


…………………………………… 道夫の日記(2) ………

昨夜は日付も変わろうという頃、
ようやく宿に帰り着いた。

…お帰りなさいましィ、先生。
 お連れ様が部屋でお待ちですよ。
と迎えられ、
一瞬何のことかといぶかった。

駐車場に赤いのがあったろうか?
暗さにかまけてよく見なかったけど、
まさか…

靴を脱ぐのももどかしく、
コートも着たまま部屋を開けた。

炬燵で丸くなって、蜜柑を頬張ってるのは…

…どこほっつき歩いてんだ!
 もー少しで捜索隊が出動するところだったぞッ

ブーと、むくれて。偉そうに。

後ろからおかみさんが笑って言った。
…さっきまでもう、うるさかったんですよぉ。
 センセ、雪道で遭難してんじゃないかーって。

緒方を振り返ると肩肘ついて
そっぽを向いてる。

…寒かったでしょー。
 さ、すぐお風呂。
 そろそろ終い湯ですから、そっちの先生もご一緒に
と言われて。
今更だけどなんだか恥ずかしかった。

…明日の仕事は?
と聞いたら
…ある。
 オマエはどこだ? 送ってやろうか
…いいの?
…昼前に出れば夕方には着く。それで構わなければ
…なんだか怖いな
…何が
…お返しになるもの何もないんだ…クリスマスのプレゼントも…
…それは今考える事じゃないだろ
と、こづかれた。

…大事なご相談でしょうけどお早めに
 片付けてもらえませんかねぇ。
 吹雪きそうだから
と、追いたてられて、カラスの行水。

予言通り
大変な風が雨戸を揺らして
家鳴りがすごかった。
…風のせいだ、もちろん。


朝目覚めて、傍らに寝顔。

これ以上の贈物は無い。
ボクは
何を返せばいいんだろう…?




……………………………………  〜 fin. 〜 ……



























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