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七草粥      

正月七日の朝は毎年、塔矢家に七草が届くのです。

その昔、野に出て若菜を摘むのは春の風景でした。
新しい年が明け、初摘みの野草で青々とした色に染めた粥で一年の健康を祈ります。
現代でもお節に飽いた体に摘みたての菜を摂るのは新鮮だし、理に適っているでしょう。
しかし東京などはまだ雪模様の年もあり、のんびり摘み草を楽しむ季節とは言えません。
それでも近年は暖かい地方などでこの一日のために栽培された七草をセットした
パッケージも販売されるようになって、
遠い西の地に発した行事が一般家庭にも普及しているようです。


まだまどろみの中にあった緒方は、電話の発信元表示に飛び起き。

「おはようございます」
「おはようございます。朝からごめんなさい、緒方さん…今届いたわ。毎年すみません」

かけてきたのは塔矢行洋先生ではなくて、明子夫人。

「あぁ、届きましたか…よかった」
「ええ、今茹でたところ」
「…は?」
「あの人ねぇ、昨日の便で帰らなかったの。
 今月中には一度帰ると言ってたけど…それじゃぁ戴くの、小正月になっちゃうでしょ…?
 軽く茹でて、冷凍庫にでも入れておくわ」
「そ、そうですね…」
「せっかく間に合うように手配して下さったのに、ごめんなさいね」
「いえ…そんな…余計なお手間をかけさせまして…申し訳ありません」
「やめてちょうだい、緒方さん。悪いのは勝手にぽんぽん予定を変えちゃう人なの、そうでしょ?」
「いえ、先生のご都合もわきまえずに先走った私がいけません…」
「もう。お礼を言おうと思ってるのにとんだことになっちゃったわね。かけなきゃよかったわ」
「ぁっ…ぃえ、お電話ありがとうございます。よければ奥様だけでも召し上がって下さい」
「えぇ。アキラさんが帰ったら、一緒にいただくわ」
「ありがとうございます」
「すっかり起しちゃったわね、ごめんなさい。また遊びにいらして。お忙しいでしょうけど」
「はい、では…また」

あーあ、緒方さん…ちゃんと先生にスケジュール確かめてから送りましょうよー(笑)
いらっしゃる予定と思っていたらアテが外れちゃって、余計にムクれてますかね…?

かの行洋大先生、しがらみ無くしたのをよい事に、風の向くまま気の向く儘。
北で野心ある若い棋士が誘えば海を渡り、
南に強い棋士の噂を聞けば足をのばし…
ご予定も融通利く限りどんどんご変更のようで。

緒方がつきっきりでスケジュール管理してた頃には考えられません。
師匠現役時代の小煩い秘書っぷりは…ここでは略しますが、
えぇ、きっと緒方のこと、それはそれはもう口うるさく…。

…行洋先生の漂泊はその反動でしょうか、もしかして?


さて、傷心の緒方さんを迎えるのも、暖かい七草粥…
であってほしいですね。
だってまだすごく寒いんですから。キーンと耳が赤くなるような朝です。
誰か作ってあげてくれないかな…?
(「自分で作れ!」というツッコミはナシでお願いします;)


塔矢アキラ先生。
彼は今静かに燃えさかっている旬の棋士です。
この若さにしてリーグ入りを果たし、もはや緒方にとっても
侮り難いライバルであることは認めなくてはならない存在。
そんな彼は、このところ緒方の顔を見ればまず対局を迫ります。
ゆっくり時間がとれるとは限らないので毎回とはいきませんが…。
…お父上がお留守の分、余計に要求がキツくなってるのでしょうか…?
いや、そもそも彼はいつも「自分が認めている相手」にはいつでも
そんな感じでしたっけ…;

さてアキラ先生、本日は越智の祖父様にお招ばれ。
…でしたのに、なぜか進藤と打っております。
(おやおや?…;)
張り詰めた寒気に響くは、ただ盤を打つ石の音…。

「えーっ、正月からオマエと打つの〜?!」
とかブツクサ言ってたわりに喜々として打ってる進藤プロ。

それを横目に越智クンは
(…終わったらボクとも打てよ…?!)
と思いながら、
何言ったって対局中は聞く耳なんかあーりゃしない二人が
交互に打つ盤をじーっとみつめてます。
もちろん正座です。
床屋さんに行きたての青い首筋が寒そうです。
でも、無言で打ち続ける無礼な二人になど負けるもんか!
祖父様の着せかけた上着は、畳んで脇に置いてます。


次に進藤君。
彼などは、うまく誘い出せたら緒方ともつきあってくれたと思いますが…
タイミングが悪かったようです。

べべべべべ…とポケットで振動した携帯。
それを慣れない手つきで取り出した進藤ヒカル。

これはプロとして指導碁にも招ばれるようになったヒカルへの
お父様からのお年玉です。
もうプロなんだからお年玉なんかー、とウッカリ格好つけたら、
コレが来ました。
言った端から内心シマッターと思っていたヒカル、
代わりに携帯をもらえてちょっと嬉しかったのですが、
「プロなんだから、毎月の電話代くらいは自分で払えるな」
ときた。
…ウッ、まぁ、自分からかけなければ、それくらい大丈夫、かな?
と思っていたら、
「夕飯が要るのか要らないのか、帰るのか外泊するのか…これで
ちゃんとお母さんに連絡すること」
と、釘を刺されました。
 うーむ、これで“アイツの家、電話は無いし、公衆電話も見つかんないし…”
なんて言い訳は通らなくなりました。
いえ、そんな言い訳、ヨイ子のヒカル君はしたことありませんけどね。

さて、とった電話は…
「誰ー…えー? あ、緒方サ…ッ、緒方せんせー!
 あけましておめでとうございます!
 あーびっくりした。何で知ってるの? あ、そっか。
 昨日先生にも教えたっけ、オレ。うん、新しいから嬉しくってさー。
 え、今? いま忙しいよ…えへへ…対局中だもんね。
 今度はオレがおごるから、また打とうよ…じゃない、打って下さい。ダメ?
 いいの?! うん? 回るヤツだよっ 悪いっ?
 あぁ、そのうち先生に勝って、その賞金でフルコースおごっちゃうからな。
 本気。あたりまえ。うん、じゃーね!」

ブチッと携帯を切ったヒカル。頭かきかき盤に戻る。
「あ…ぁ、ごめんごめん。オレだよな…?」
「…進藤、対局中は…電源を切れ。
 こんなこと…いまさらボクが言うまでもなく
 棋士として最低限のマナー、だろうが…な…」

静かな静かな言い方でしたが、それが示す怒りの激しさたるや、
脇に控えていた越智もチビりそうでした。
碁盤だからしなかったんでしょうが、アレがもし
ちゃぶ台だったらぜったいひっくり返してるぜ…
とは後日、和谷君にヒカルが語ったこと。

「おぉ先生方、熱戦中申し訳ないが、ちょっと中断して
そろそろお昼に付き合って下さいませんかな…?」

と、座敷に入ってきた祖父様、ただならぬ気配に息をのみます。
「ど、どうかしたのか…康介?」
「なななななんでもないよっ
 キミたち、ボクはお昼をいただくけど、どうする?
 塔矢は対局中いつも食べないよね」
 越智は丸眼鏡をずりあげながらホスト側らしくそう言います。

「おっ もうそんな時間? うへー…ゴメン、塔矢、オレ食ってくる。
…と、塔矢も一緒に行こうぜ…?」
「いや、ボクは…」
「はは…ま、何もありませんが、七草粥を用意させてあります。
 腹持ちは悪いですが、縁起物ですからな…足りなければ餅を焼きましょう」
「そうそう、お粥くらいすぐお腹もぺっちゃんこになるだろ? な…」
「え…」
渋るアキラの手を引いて、ヒカルは囁きます。
「…ココん家、塔矢のお得意様なんだろ?
 オレがひとりで行って、じぃさんの機嫌損ねたりしたらヤバくないか…?
 オマエも一緒に来いって…」
「フ…しょうがないな」

微笑ってアキラもヒカルと共に去った後に…
しびれを切らして立てない越智がひとり、とり残されました。
「……ぅ…くッ」
め、目尻に滲んだのは涙じゃないぞッ…汗さッ。
汗が滲みただけだー…!



「伊角さーん、年賀状なんかいいだろ、もう。早く行こうぜー…」
和谷の師匠、森下茂男家での打ち初めはもうとっくに済んでますが、
今日は九星会。
寄り集まれるメンバーだけで…と、やはりこれも打ち初め会。
伊角が連れてってくれるというから、いそいそ伊角宅に来た和谷。
ところが会の開始にはまだ間があるからと
年賀状のお返しをしたためている伊角さん。
待ちくたびれて和谷は畳の上でごろごろ。

「行儀の悪いヤツだなぁ…あと一枚で済むから、待ってくれ。
 和谷はもう済んだのか?」
「あぁ。実家に戻ったら、もう少しあるかもしんないけど」
「帰らなかったのか…?!」
「ちゃんと帰ったよ…年末」
「…それじゃ意味ないだろ」
「暇になったら行くよ」
「だからそれじゃ意味ないって…」
「かってーなぁ、伊角さん」
「硬いかどうかじゃなく、けじめだろ、そういうのは」
「お、これ何?」
と、漁っていた伊角宛の年賀状に見慣れない漢字をみつけて
尋ねる和谷。
「んー…よく解んないけど、中国棋院の人、かなぁ…」
「ふーん。中国と言えばオレ、楊海さんからメールもらった」
「何て書いてあった?」
「えー、あー、うーん…なんか囲碁ソフトがどーとか…」
「あ、できたのかな。オレが行ってた時に作ってったやつが」
「さぁ…よくわかんないけど。あ、これも中国?」
「あぁ…そうだな」
「何て書いてあんの?」
「え? いや、さぁ…」
「何だ、伊角さん。あんだけいたくせに読めないのかよ?」
「う…」
「ほんっとに碁ばーっか、やってたんだなー。はぁ…伊角さんらしいや。
 なぁ、まだかかりそう?
 も、オレ、先に行こうかなー…」
「えっ、和谷? おい、ちょっと、待てったら、和谷!
 あ、電話…」

と、卓上電話の受話器を取った伊角さん。

「はい、伊角ですが。
 ぅわッ…あ、明けましておめでとうございます…!
 昨年はいろいろと…え、別に何も世話なんかって…いや、それはソノ、あの…
 こ、今年もよろしくお願いします!」

焦って置こうとした受話器が何か叫んでいるのに気づいて取り直す。

「あ、何でしょう…え、これから? いや、あのぅ…せっかくなんですが…
 今から別の打ち初め会が…え?
 そんなの行くなって、急にそんな訳には…あは…え、桑原先生がっ?
 まさかー…来るわけないですよ、そんな…え、クル? お正月は特別…?
 ホ、ホント、ですか? だから…はぁ、えぇ、は…? は?
 あの、よく聞こえないんですが、とにかく今から出かけますので、これで…
 とても残念ですけど…もしっ、もしもまた…ぁ、また、は、無い…?
 …ァハハ、はぁ、そりゃそう、ですよね…す、すいません、すいません、
 あのオガッ……アッ…」

ツー、ツー、ツー、ツー…。
切れてしまった受話器を悄然と置く伊角。
心配してのぞきこむ和谷に苦笑して答える。
「緒方十段ってあんな声してたっけ…もしかしてオレ、だまされてるか…?」
「えっ…今の電話、緒方十段…?」
(ななな、何で、伊角さんの電話番号知ってんだよ、オガタ十段がーッ?!)
和谷君の心の叫びは聞こえない伊角さん、ちょっと残念そう。
「もったいないことしたかなー…緒方十段が誘ってくれるなんてさー…
 きっともう無い、よなぁ…?」
「何が、もったいもんかっ」
目を丸くして見返す伊角さんに、和谷はきっぱり言い切ります。
「…そんなワケわかんない電話、気にしなくたって、
 オレたちが上に上がればイヤでも打つ相手じゃないか」
「うん。そうだな」
伊角さんは、ほっと笑いました。和谷もほっとして声をかけます。
「遅れるぜ、伊角さん」
「あぁ、行こう、和谷」


ペコペコペコ…なんともへろへろした呼出し音が鳴っているのですが、
持ち主はいっこうに起きません。

「芦原さん、芦原さんって、起きて下さい!」
「ぅ〜もーちょっと〜」
「電話!」
「放っといてよぅう…昨夜遅かったんだから…」
「遅いのはオレも一緒です! 電話! さっきから何回も…」
「うー…」
冴木に抱き起こされて渋々目をこすって起きた芦原、
「ぅあぃおござぃまス…オガァサン…
…ぅ〜…フショー芦原、タダイマ死んでまぁす…ぅじゃ」
ブチっと電話を切ってまた布団にもぐりこんでしまう。

「あーしーはーらーサンッ」
掛布団を足でめくった冴木…器用だ。
手には鍋とお玉と椀が二つ。
「いい加減に起きて下さいってば! 朝飯できましたよ」
「んー…ゴアン? いらにゃーぃ…も少し…ネル…」
「遅れますよッ」
「ぅ熱ちちちちちちちちちちちっちっ…な、何すんだよっもうッ」
おでこに鍋を乗せられて飛び起きた芦原くん。

大きめのパジャマがちょっと乱れて、おへそが見えてます。
どんぐり眼にかぶさっている寝癖でくしゃくしゃの黒髪もラ〜ボリィ。

…と見とれている場合ではなくて。

時間が迫っているのでした。
「あー、もう、早く布団片してテーブル出してくださいよ。
オレいつまで持ってなきゃなんないんですか、コレ?」
「あはははは…」
と笑いながら布団をずずーっと端に寄せた芦原は、
(…畳んでくれないんですかぁ?!)
という冴木の顔は目に入らないまま、壁に立てかけてあった小卓を中央に置く。
「はぁい。布団、ホコリ立つから食った後、片付けの時に畳むな」
と一応もっともらしいことを言う。
「そこのシューカンゴでいいからちょっとソコへ」
棋譜の載った紙は気が引けたのか一般雑誌を卓上に置いて芦原は言った。
「鍋敷くらい買えばぁ? あ、オレ、買ってこようか…面白いのあるんだけど」
「…いいです」
日用雑貨を気軽に買って来てくれるのは有難いが、
物が増えるのと芦原の居付きようが比例している気がして
冴木は複雑な気分である。
(オレん家、別に芦原サンの別宅じゃないですからね…)
と思うが、逆に自分が芦原宅に入り浸るのも気がひけて。
行けないわけでも行かないわけでもないけれど…。

「早く、よそってよ…待ってんだけど?」
箸を両手で握って冴木を見上げる芦原。
「あ…はい」
「ぅわー何コレ、緑色?」
「七草粥です」
「あ、あぁ…今日、七日だっけ」
「そうですよ。時間無いから早く食べて下さい」
「ねー、これだとすぐお腹空くだろ。 餅か何か焼いてくんない?」
「…あぁ」
と、そこにチーン、とオーブントースターの音。
「どうぞ」
餅にチーズと海苔を巻いて醤油を垂らした小皿を前にして芦原は喜んだ。
「わーい、気が利くぅ。だから好きだよ冴木ってば〜」
「どーも」
色気も素っ気もない挨拶口調にチョコっと動悸する自分が少しなさけない。
「カノジョにもそう言ってあげればよかったんじゃないですか?」
「言った! 言ったの! 言ったのにフラれたのー!
 …オレの話ぜんぜん聞いてないじゃないか、もぅ…」
「聞きましたけど…」
芦原はどこまで本気なのだろう?
「でも今オレに言ったの本気じゃないでしょう。
 本気の時はもう少しマジメな口調で言ったほうがいいんじゃないですか」
言いながら虚しいと思う。
アドバイスしたって芦原の彼女とやらはいなくなったそうだし、
だいたい自分にアドバイスする資格なんかハナから無い。
「そっかなぁ…オレはいっつも本気なんだけど」
「冗談にしか聞こえませんよ」
「んー…そっかぁ…? あ、遠慮の塊、もーらいっ」
「…どうぞ」
「えへへー…ザエギやざじー! やっばズギー!」
(だから、それが本気に聞こえないんだってばーっ!!)
もぐもぐほおばる芦原さん。とっても幸せそうです。
(ホントにフラれた翌日なんですか…?)

「あっ…もう時間が…早くはやく、芦原さんまだパジャマ」
「んっ…1分!」
遠慮も何も無く冴木の目の前でマッパになって、バタターと身支度整える芦原。

「行くぞ…?」
玄関に立つのはなぜか芦原が先。
「待っ…」
鍵を閉める冴木に、階下から芦原が笑いかける。
「待ってーるーぞー」
「さっ…先に行って下さい…!」
「やーだ」
「…ッ…」
ドガガガガンと階段を息せききって冴木か駆け下りるとヒャッヒャッヒャ…と笑った。
「…お待たせ…しました…ケホ…」
「よし、行こう」



あぁ…そんな調子で朝からことごとくフラれた(?)緒方先生を
やさしく迎えるのはこの人しかいないでしょう、白川先生。
もちろん手作りのお粥が待っています。せんせー、やさしい〜(笑)
ちなみにこの七草は手摘みです。
先生は七草をスーパーで買ったりはしません。
毎年摘む場所がちゃんとあるのです。(…どこで?)

「ほらほら、そんなにがっかりしない。先生だって帰られたら食べて下さるんだろ…?」
「…別に、がっかりなんて。誰が…」
「とにかくキミは今食べるんだろ…じゃ、刻むよ」

七草粥の作り方…
・まず白粥を用意します。
 お米から作るか、ご飯から作るかはお好みでどちらでも構いません。
 たださらさらとのどに流し込める程の粘度に仕上げますから、
 菜の水気が少し出ることを見越して仕上がりより気持ち水分控えめでもよいです。
(市販の七草パックだけを利用するときは量が少ないので出る水分も考えなくてよい。)
・七草の量は4膳分に対し生で片手一握りほどもあれば十分です。
 もし買ってきた七草の量が少ないように感じたら、八百屋さんで
 大根と蕪の葉を少し分けてもらうといいです。(春の七草の「すずな」「すずしろ」。)
 七草はよく水洗いして、水気を切っておいて下さい。
・食べる人の顔を見てから、白粥を暖め直して、俎で七草の歌を歌いながら刻む慣わし。
 このとき、七草は生のまま、細かく細かくゴマより小さく刻みます。茹でません。
 細かく刻んじゃうと、そのまま熱いお粥に入れるだけで火が通っちゃうからです。
(ただし、長けた大根の葉の茎の歯触りを楽しみたい場合は、輪切りにした茎だけ
 軽く湯掻いて水切りして使うといいです。粥の水分はかなり控えめで。)
・白粥が沸騰したら刻んだ七草を一気に入れ、塩を振り、
 菜がまんべんなくいきわたるよう、ざっとかきまぜて、いただきます。
 ※ あまりしつこくかき混ぜるとねばりが出てくるのでご注意ください。

「七草、なずな…唐土の鳥の渡らぬうちに…」
「…変な歌だ」
「そう? キミに教わったとおりに歌ってるつもりだけど…」
「オレが…? ウソつけ」
「…忘れちゃったのかい?」
「忘れるも何もあるか。教えた覚えが無い」
「ボクは覚えてる」
「……腹がへった、まだか」
ぐだぐだ文句言いながら出来上がるのをじーっと待つ緒方。
かあいいですねぇ〜。
なんだかもうお酒飲んでそうなんですけど、そこは白川せんせい、どうでしょう?
ごはんの時にはお酒出さないかな?
まぁちょっとだけならヨイかも…?
お酒はちゃんとしたのを用意してくれているはずです。
でも、出すのはまだのつもりだったかも…。

あれ、静かにしてるなぁ、と白川が振り返るといつのまにか緒方、
一合徳利を前にチビチビ、塩辛などをアテになめています…。

やれやれ、そんなことしちゃうと…
「お待たせ」
と、せっかく出てきたお粥がやたら味無く感じます。
「不味ッ…塩!」
と食卓塩に手を伸ばすと、手の甲を叩かれて。
「ダメっ。塩摂り過ぎ」
いましめる目をうらみがましそうに見返して椀を口元に引き寄せると、今度は
「熱ッ! アツ…熱過ぎるぞー!」
と大騒ぎ。
「できたてだから熱くて当たり前」
と、すまして粥をすする白川。
作った本人が言うのは何ですが、ちょうどよい塩梅。
(舌がバカになってなければ、ですが。)

「…何? だまりこくって。お粥食べないの?」
「やけどした…」
とふくれっつらの緒方。
舌をペローンと出して、恨みがましい目で白川を見ていますが、
その心はあえて無視。
「はい」
冷水の入ったコップがすばやく前に差し出されます。
「…………」
黙ったまま動こうとしない緒方に、その首根っこを捕まえて白川、
「ちゃんと冷やして」
と、口にコップを近づけると、プイ、とそっぽ向いて、舌も口の中に隠してしまう。
「痛くなるから、早く…」
「……とっくに痛い」
「ほら」
コップを近づけると、いやいやする緒方の顔があたって、バシャッと水が零れた。
「緒方ッ」
アッカンベーする悪ガキの頭の上から、残った冷水を注ぎかける白川。
「な、何すっ…バカッ」

ばたつく緒方を流しにひきずった白川は緒方の顎を掴んで大きく開かせ、
出てきた舌に向けて蛇口を捻った。

「よぼぼごぼごぼごぼぐぶべばガば…」

ダバダバと落ちる水にむせて緒方はもがく。
だが、たっぷり一分間その姿勢で固定された。

「ごふっ…ゴヘッ…コッコッ…カフッ…ゼヒ…ゼヒ…ゼヒ…」
せきこむ緒方の口元をタオルで拭ってやりながら白川がのぞきこむ。
「大丈夫…?」
「何…がッダイ、ジョー…コハッ…コハッ…鼻ッに水が…くしゅん!」
涙とハナちょうちんをキュキュッと拭うと、白川は指先で緒方の口をこじあける。
「…舌。見せて」
緒方が眉をしかめながら舌先をチョッとだけ出すと
「それじゃわかんない…もっと」
と要求され、もう少しだけ伸ばす。
「もっと。もっと大きく開いてったら…ね…ここも火傷した…?」
気遣わしげな指先が触れる唇。
クッと眉をひそめた緒方に指先が宙に浮いた。
「痛かった…?」
「…くない」
「うそ…痛いんだろ…?」
「…かない」
「ココ…?」
「…な…ぃ…ッ」
言葉と裏腹にひきつる表情に白川の顔が曇る。
「熱かった…?」
「…や…」
「熱かったろ…」
心配そうな顔が近づいて、緒方は首をのけぞらせた。
「飲み込んでしまえば別に…」
「奥まで火傷した? 見せて!」
「るさイ」
そう言ったが、白川の目におずおずと口を開ける。
「奥まで…」
両頬をおし包む手で誘導して光を咽喉奥まで射し入れる。
「…赤くなってる」
白川は目を伏せると、耳を擦りあわせるように俯いて首を抱き、
祈るようにそぅっとくちづけた。
軽い軽い羽のようなくちづけを追うように首をめぐらせ緒方はつぶやく。
「もぅ、いたかなぃ…」
「痛いよ…」
「ナイ…!」
言葉ばかり強く否定しても、粘膜の剥げた箇所の舌触りは痛々しく、
まるで自分が痛むように白川は眉を寄せた。
「痛いって…」
「…くなぃ」
噛み付くようなくちづけを求める緒方に苦笑して舌を差し入れる。
「つぶしちゃだめ…」
唇の小さな白い火脹れをそっと舐めてやってから唇を重ね、指を重ね…。
「舐めとけば治る…」
「そぅ…?」
「全部…」
「あぁ、ぜんぶ…」
「奥の方も…」
「…ん…」
「……」

床の上に折り重なる体、やわらかなうごきをていねいに重ねあって、
雪のようにかるく…積みかさねて…埋もれてしまうまで…かさねあう、しぐさ…。



                               〜 fin. 〜




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