拉致しそこねた事を後悔する美しさなのだ。 夜空に輝く宝冠…闇に映えるタペストリー… こんな豪華さは君にこそふさわしい… と、傍らにいない人の事を想起して胸が痛む。 いつの間にか撒いた同行人諸氏の誰とも 出会う気遣いはもう無い程の人出…。 だが嘆くべきは撒けたからといって 合流したい人はここにいないこと。 撒くのがいつのまにか癖になったのは誰のせい… いない人を責めたい気分。 出てはくれないだろうと思いながらも、ふと 手にした携帯を起動し、慣れた番号を叩く…。 万一をおもんばかってアドレスにも入れてない番号を。 「なんだ」 いきなり応答され驚く。 「ふつーそこで誰とか何とか聞かない?」 動揺を抑えできるだけ軽そうにからかい口調で。 「フン…こんな時間にヒトの迷惑承知でかけてくる馬鹿は オマエくらいだ!」 「そりゃどうも」 と、さりげなく返しつつ話題を探す。 索がった微かな絆…切られ難い話は? 「今日の入門講座でね…」 「オマエ今どこにいるって?」 さえぎるように問い。 「神戸。講座が終わってルミナリエを案内してもらった」 はぐれた事までは報告しなくていいだろ…。 「じゃ来いよ、きょうの一戦を見せてやるから」 「聞いてないね、今神戸…」 「4時間もあれば着く、だろ」 ニヤニヤ笑いまで見えそうな声…酔ってる! 「もう宿はとってあるんだ」 お生憎様。 「そんなものキャンセルだろ」 「…キャンセル代払ってくれるの」 「知るか…どーせ嘘の癖に」 ぐ…今からだって宿は取れるんだぞ?! 「御託はいい…来るんだろ…?」 こ…の、悪党…ッ 「あぁ!」 急ぎ足で人混みを掻き分け駅を目指す…。 「けど…」 挑発を一言。 「着いたら寝てるんじゃないの? そんな調子じゃ…もう何杯目だよ?」 「ばぁか。まだ一缶目だ」 ぜぇ…ったい嘘。ビール一缶でキミが酔っぱらう訳ないじゃないか…! 「オマエが着く頃には醒めてる…!」 …まぁそういう事にしておきますか。 新幹線の座席に落着いた途端に携帯が震えた。 「乗ったのか」 躊躇も無い問いに苦笑する。 「違うって言ったら?」 「…違うのか」 あからさまに不機嫌な声でまた笑ってしまう。 「違わない」 「そらみろ」 何が? こらえきれずに咽喉の音が聞えたらしい。 「何笑ってんだッ?」 「別に…」 「笑ってる…!」 新幹線が動き出す。 「はい?」 「来る時肴何か買ってこいよ」 「…今頃空いてる店…」 「カマンベールに何か挟んだろ、この前…」 「…燻製ハム」 「それ」 言うだけ言って切れた。 「…ったく」 ボヤきながら微笑みを隠せぬ白川。 新幹線の車内販売が回って来た。 「六甲のバター、ミルクチョコレート、チーズに神戸牛…」 ちょっと考えて手を挙げ、売り子を呼び止めた。 「すみません、おいくらですか?」 …さて。何を買ってやろう。 そしてリダイヤル。 「今何を買ったと思う?」 「知るか」 白川は携帯を持ちなおすと緒方に土産を予告する。 「神戸牛」 「オマエの軽い財布でよく買えたな」 憎まれ口叩いてみても心なしか弾んで聞えるのが微笑ましい。 「関西の人は気前がいいんだよ」 「オレにはそう思えんが」 「それは…性格の相違かな」 「オレが悪いってのか?」 「別にそうは言ってない」 「言った!」 こじれそうなので噛み砕くように説明する。 「キミ、他人に貰い物してもちっとも嬉しそうな顔しないだろう」 「有難く無い物を貰っても迷惑だ」 「でもつれなくされちゃぁ、二度とやりたくなくなるだろ?」 「有益な物を呉れるんならオレだって喜ぶ」 「役立つ物を呉れるようになる前に関係を断ち切ってるんだよキミは…」 「お偉いよオマエは…!」 そう言って、切れた。 また携帯が震えた。 「はい…?」 「切れたならかけろよ…!」 声を殺しながら笑ってしまった。 「ん…悪かったね…何の話だっけ」 「…話は終っただろ」 笑いをこらえてからかってみる。 「じゃぁ…電話で、しよぅか?」 「…ッ…何を言いだすんだコノ…色情狂っ」 「したくないの…?」 「オマエ本当に酔っぱらってるだろ?」 「酔わせてくれるのはキミだろ…違うの?」 「馬鹿は一人でやれッ」 また切れた。 まぁいい。またかけてくる… そう思えて携帯をまだ手に持ったまままどろむ。 ホラ… 「何時に着くんだ?」 「迎えに来てくれるの?」 「酔っぱらいは放っとけん」 笑いながら着時間を告げる。 断続する電話を刺激剤にしながら ボクらはだんだん近づいていく…。 〜おしまい〜